脇汗ボトックスは、汗を出せという指令が汗腺へ届くのを止める注射で、汗腺そのものを壊すわけではないため、効果はやがて薄れていきます。
持続期間の目安はおよそ4〜9か月で、繰り返すほど効いている期間が延びたという報告もあり、1回で終わる治療ではなく間隔を空けて続けていく前提の方法です。
費用については、重度の脇の多汗症に対して保険が使える枠組みが国内にありますが、当院ではボトックス注射を自由診療として行っており、保険は適用されません。
この記事では効果の仕組み、持続期間の実際、費用の考え方、塗り薬との使い分け、受ける前の確認点を整理しました。
脇汗ボトックスの効果は汗の指令を止める働き
ボトックスは神経の末端から出る伝達物質の放出を抑えて汗腺へ届く指令を遮るため、汗の出口をふさぐ塗り薬とは違う角度から発汗を減らしていきます。
| 方法 | 汗を抑える働き | 効き方の特徴 |
|---|---|---|
| ボトックス注射 | 汗腺へ届く指令の伝達を止める | 数日〜1週間で効き、数か月続く |
| 抗コリン成分の塗り薬 | 指令を伝える物質の働きを抑える | 毎日塗り続けて効果を保つ |
| 塩化アルミニウムの外用 | 汗の出口に栓を作ってふさぐ | 塗った範囲だけに働く |
| 抗コリン薬の内服 | 全身の汗の指令を抑える | 脇以外の部位にも同時に働く |
汗腺は壊さず働きを休ませる
脇汗ボトックスで注射した成分は、神経の末端に取り込まれて伝達物質の放出を邪魔します。汗腺そのものは残ったまま、指令が届かない状態になるだけなので、時間が経てば元の働きへ戻っていきます。
元に戻るという性質は、一度受けたら取り返しがつかない治療ではないという安心にもつながり、合わないと感じた場合は繰り返さなければ体に成分は残りません。
その一方で、一度きりで終わる治療ではない点は先に知っておきたいところで、汗を抑え続けたいのであれば間隔を空けて受け直す前提で計画を立てていきます。
汗腺が休んでいる間も、体全体の体温調節は残った汗腺が担ってくれます。脇の汗だけを抑えても熱がこもるわけではないため、その点を心配して受けるのをためらう必要はありません。
大規模な試験で示された効き目
脇の多汗症に対するボトックスは、比較試験の裏づけが厚い治療です。欧州の17施設で320人を対象に行われた二重盲検の試験では、4週の時点で反応があった方が注射群の94%、偽薬群では36%でした。
同じ試験で満足度の点数も注射群のほうが高く、有害な出来事が報告されたのは11%にとどまっています。生活の質を測る指標を使った別の試験でも、注射を受けた群で改善がはっきり出ていました。
16か月にわたって追いかけた前向きの研究でも、繰り返し受けた場合の安全性と有効性が確かめられています。効き目と安全性のどちらについても、まとまった数の報告が積み上がってきた治療といえるでしょう。
効き始めるまでの日数
注射した当日から汗が止まるわけではなく、指令の伝達が徐々に抑えられていくため、効き始めるまでに数日から1週間ほどかかります。
大切な予定に合わせたい場合はこの立ち上がりの日数を見込んで受ける日を決めますが、前日に駆け込んでも間に合わないため、2週間ほど前を目安に組んでおくと落ち着いて臨めます。
初めて受ける方は、効き方も持続期間も実際に試してみるまで読みきれません。大切な予定の直前を初回に充てるより、一度余裕のある時期に受けて自分の効き方を知っておくほうが確実でしょう。
脇汗ボトックスの持続期間はおよそ4〜9か月
効果が続く期間の目安はおよそ4〜9か月で、個人差が大きく、汗の量や体質、注射した量によって幅が出てきます。
繰り返すと効いている期間が延びた報告
83人を11年にわたって追った研究では、初回の注射で効果が続いた期間の中央値が5.5か月だったのに対し、最後の注射では8.5か月へ延びていました。回を重ねるほど間隔を空けられた形です。
繰り返し受けた場合の効果と持続を調べた別の報告でも、回数を重ねて効きが落ちるという傾向は示されませんでした。長く付き合っていく治療として、現実的な選択肢になりえます。
ただし、この延長がすべての方に起きると約束されているわけではありません。1年近く空けられる方もいれば、半年ごとに受け直す方もいて、間隔は実際の効き方を見ながら決めていきます。
季節に合わせて受ける時期を決める
汗の悩みが重くなるのは、気温と湿度が上がる時期に集中しがちです。持続期間が半年前後であることを踏まえると、春の終わりごろに受けて夏を越すという組み立てが理にかなっています。
一年を通じて困っている方の場合は間隔を決めて定期的に受け直す形になるため、どの時期に最も困るかを診察でうかがい、そこへ効き目の山が来るよう逆算していきます。
効き目が薄れてきたと感じた時期を記録しておくと、次に受ける間隔を決める材料になります。前回いつ受けて、いつごろ汗が戻ったかを覚えておいていただけると計画が立てやすくなります。
注射する量と打ち方
脇の多汗症に対しては片わきあたり50単位、両わきで合計100単位という量が用いられ、汗の出ている範囲に細かく分けて注射していく方法が一般的です。
打ち方を比べた無作為化試験では、細かく分けて刺す方法と放射状に広げる方法のどちらでも、30日後に95%の方が汗の半分以上の減少に達していました。放射状の方法は早く終わる一方、痛みは強く感じられたと報告されています。
汗が出ている範囲は見た目だけでは分かりにくいため、あらかじめ範囲を確かめてから注射する場合もあります。抜けなく打つことが、効きむらを防ぐうえで大切になります。
研究の場では、ヨウ素とデンプンを使って発汗している範囲を染め出す方法や、一定時間に出た汗をろ紙の重さで量る方法が用いられてきました。日常の診療では見た目と問診が中心ですが、範囲の見きわめにはこうした考え方が土台にあります。
| 報告の内容 | 結果 |
|---|---|
| 初回の効果が続いた期間(83人・中央値) | 5.5か月 |
| 繰り返した最後の注射(同じ研究) | 8.5か月 |
| 4週後に反応があった方の割合 | 注射群94%/偽薬群36% |
| 30日後に汗が半分以上減った方 | 95% |
脇汗ボトックスの保険適用と当院での費用の扱い
国内では、重度の原発性腋窩多汗症に対してボツリヌス療法が承認されており、保険が使える枠組みがあります。ただし当院ではボトックス注射を自由診療として行っているため、保険は適用されません。
| 治療 | 当院での費用の扱い |
|---|---|
| 塗り薬(エクロックゲル、ラピフォート、塩化アルミニウムなど) | 健康保険が適用されます |
| 内服薬(抗コリン薬) | 健康保険が適用されます |
| ボトックス注射 | 自由診療(自費)です |
保険で受けるには重症と判断される必要がある
保険の対象となるのは重度と判断される脇の多汗症で、原因のはっきりしない汗が半年以上続いていることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。汗が多いという自覚だけで自動的に対象になるわけではありません。
重症度の判定には生活への支障の大きさを4段階で答える指標が使われ、汗の量そのものより、日常がどれだけ妨げられているかを見て判断していきます。
実際にどの施設で保険診療として受けられるかは、その医療機関の方針によって異なります。受診する前に、保険で行っているかどうかを確かめておくと行き違いが避けられます。
保険で受ける場合には、条件を満たしているかを確かめる診察と手続きが前提になります。当日いきなり注射まで進むとは限らない点も、知っておいていただきたいところです。
当院では自費での対応になる
当院のボトックス注射は自由診療で、使用する製剤によって費用が変わり、アラガン社製と韓国製の2種類から選んでいただく形をとっています。
費用の詳細と製剤の違いは診察の際にお伝えします。持続期間や打ち方の希望を含めて相談したうえで、どちらを使うかを決めていきます。
自費であるぶん、受ける時期や回数をご自身の都合で組み立てやすいという面もあります。困る季節に合わせて年1回だけ受けるという選び方も、無理なく成り立ちます。
塗り薬と内服薬は保険で始められる
脇汗の治療は保険が適用される塗り薬から始められ、費用の負担が軽いぶん、まず試してみて足りるかどうかを確かめるという進め方がとりやすくなります。
脇に使う塗り薬は大規模な比較試験で効果が確かめられており、いきなり注射を選ぶ必要はありません。試したうえで物足りなさが残った場合に、注射を検討するという順序が現実的でしょう。
塗り薬を試した経験は、注射へ進むかどうかを決めるときの材料にもなります。どの程度まで抑えられたのかを知っておくと、次の一手を選ぶ精度が上がります。
脇汗ボトックスのメリットと知っておきたい注意点
毎日の手入れから解放される点が、脇汗ボトックスの最も大きな利点です。その一方で、費用と繰り返しの手間、注射に伴う一時的な症状は受ける前に知っておきたいところです。
塗り忘れや塗り直しから離れられる
塗り薬は毎日続けてこそ効き目が保たれるため、忙しい時期ほど抜けが出やすくなります。注射であれば一度受ければ数か月にわたって効き続けるので、日々の手間そのものが消えます。
- 毎日の塗り薬から離れられる
- 効いている期間が数か月続く
- 服の色や素材を選びやすくなる
- 汗じみを気にする場面が減る
生活の質を測る指標を用いた試験でも、注射を受けた群で改善がはっきり示されました。汗の量そのものだけでなく、気にせず過ごせる時間が増えるかどうかまで含めて評価されています。
注射に伴う痛みと一時的な症状
脇に細かく分けて注射するため、チクチクとした痛みは避けられません。注射した場所に内出血や痛みが出ることもあります。
大規模な試験で有害な出来事が報告されたのは11%で、多くは軽いものでした。とはいえ体質によって出方は変わるため、気になる変化があれば早めに知らせていただけると安心です。
受けた当日は、激しい運動や長い入浴、飲酒を控えていただくようお願いしています。注射した部位を強くこすらないことも、内出血を広げないための注意点になります。
効果が切れたら元に戻る
汗腺を壊す治療ではないため、効き目が薄れれば汗の量は元の状態へ戻ります。永久に汗が止まると期待して受けると、数か月後に落胆することになりかねません。
戻ることを前提に、繰り返す間隔と費用を見比べて判断していくほうが納得しやすいでしょう。困る季節だけ受けるという使い方も、選択肢のひとつに入ります。
効き目が切れたあとに以前より汗が増えるということは、報告のうえでは示されていません。元の状態へ戻るだけなので、受ける前より悪くなる心配は要らないと考えてよいでしょう。
脇汗ボトックスと塗り薬の使い分け
当院では多くの場合まず塗り薬から始め、塗り薬で十分でないとき、あるいは確実に抑えたい場面があるときに、注射や内服薬を検討していきます。
塗り薬にも確かな裏づけがある
脇の多汗症に用いる抗コリン成分の外用薬は、大規模な第3相試験で効果が確かめられています。重症度の指標が改善した方の割合は、薬を使った群で62.6%、対照群で34.0%でした。
4本の無作為化試験、あわせて1,401人分をまとめた解析でも、重症度と生活の質の両面で改善が示されました。注射に比べて手軽なわりに、効き目は決して見劣りしません。
44週にわたる長期の観察でも、続けて使った場合の安全性が確かめられています。口の渇きなど抗コリン成分に特有の症状は出うるものの、多くは軽いものでした。
続けやすさで選ぶという視点
毎日塗る手間が苦にならない方であれば塗り薬を続けるほうが費用の面でも有利ですが、続けること自体が負担になる方には注射のほうが向いています。
効き目の強さだけでなく、生活の中で無理なく続けられるかどうかも判断の材料になります。どちらが優れているかではなく、どちらが自分に合うかという選び方が現実的でしょう。
組み合わせて使うこともできる
注射で汗を抑えつつ、効き目が薄れてきた時期に塗り薬で補うという使い方もあり、どちらか一方に決めなければならないわけではありません。
脇以外の部位にも汗の悩みがある方には、内服薬を組み合わせる選択肢も出てきます。困っている部位と場面を整理してから、組み合わせを決めていきます。
手のひらや足の裏にもボトックス注射は使えるため、部位をまたいで計画することも可能です。どこから手をつけるかは、生活の中で最も困っている場面を基準に決めていきます。
| 見るところ | 塗り薬 | ボトックス注射 |
|---|---|---|
| 手間 | 毎日塗り続ける | 数か月に1回受ける |
| 費用の扱い | 健康保険が適用されます | 当院では自費です |
| 効き始め | 数日〜数週間 | 数日〜1週間 |
| 向いている方 | 毎日の手入れが苦にならない | 続けること自体が負担になる |
脇汗ボトックスを受ける前に確かめておきたいこと
受ける前に確かめたいのは、その汗が体質によるものかどうかと、当院で対応できる範囲かどうかの2点です。汗を抑える手段は注射だけではありません。
別の原因が隠れていないかを先に確かめる
体質による多汗症は左右対称に出て、眠っている間は止まるのが通常の姿です。片側だけ汗をかく、寝ている間もかく、25歳を過ぎてから急に始まったという場合は、別の原因を先に確かめます。
妊娠中や授乳中の方、注射する部位に感染や炎症がある方は受けられません。神経や筋肉の病気で治療を受けている方も慎重な判断が要るため、通院中の病気と飲んでいる薬は必ずお知らせください。
- いつから汗が気になり始めたか
- 脇以外に汗で困る部位があるか
- 常用している薬があるか
- これまでに試した対策とその結果
こうした点を整理して受診いただくと、初回の診察で方針まで話を進めやすくなります。汗を抑える治療と原因の確認は、並行して進められます。
当院で行っていない治療
脇汗の治療には、マイクロ波で汗腺に働きかけるミラドライや、汗腺を取り除く手術、イオントフォレーシスといった方法も知られています。ただし当院では、イオントフォレーシス・手術・ミラドライは行っておりません。
ボトックスとマイクロ波による治療を左右のわきで比べた無作為化試験では、1年後の汗の減り方は同程度でした。マイクロ波の側ではにおいと毛の減少も見られ、76%の方がマイクロ波のほうを好んだと報告されています。
当院で対応しているのは塗り薬・内服薬・ボトックス注射の3つです。多くの場合はまず塗り薬から始め、十分でないときや確実に抑えたい場面があるときに、注射や内服薬を検討していきます。
においの悩みは別に考える
汗の量とにおいは関わってはいるものの別の問題で、ボトックスは汗を抑える治療であり、においそのものを狙った治療ではありません。
汗が減った結果としてにおいが気にならなくなる方はいますが、においが主な悩みであれば別の道筋で考えていきます。どちらで困っているかを診察で分けてうかがいます。
実際、ボトックスとマイクロ波による治療を比べた試験では、においの減り方に差が出ていました。汗とにおいのどちらを重く見るかで、選ぶべき方法が変わってくるわけです。
よくある質問
- 脇汗ボトックスの効果はいつから出ますか?
-
注射した当日ではなく、数日から1週間ほどかけて効き始めます。指令の伝達が徐々に抑えられていくため、実感までに少し間が空きます。
大切な予定に合わせたい場合は、2週間ほど前を目安に受けておくと落ち着いて臨めます。前日では間に合いません。
- 脇汗ボトックスは何回くらい繰り返す必要がありますか?
-
効果が続く期間はおよそ4〜9か月なので、抑え続けたい場合は年に1回から2回ほど受け直す計算になります。困る季節だけ受けるという使い方も選べます。
83人を追った研究では、繰り返すうちに効いている期間が延びていました。回数を重ねると間隔を空けられる方もいらっしゃいます。
- 脇汗ボトックスを受けると汗が別の場所から出ますか?
-
注射した範囲の汗が抑えられるぶん、ほかの部位の汗を意識しやすくなる方はいらっしゃいます。ただし、体が別の場所へ汗を回すという仕組みではありません。
気になる変化があれば診察でお知らせください。汗の出方を確かめたうえで、必要なら対応を組み直します。
- 脇汗ボトックスの注射は痛いですか?
-
細い針で脇に分けて注射するため、チクチクとした痛みは伴います。注射した場所に内出血や痛みが出ることもあります。
打ち方を比べた試験では、放射状に広げる方法のほうが早く終わる一方で痛みは強めでした。手技の選び方でも感じ方は変わってきます。
- 脇汗ボトックスの前に塗り薬を試すべきですか?
-
当院では多くの場合、まず塗り薬から始めます。脇に使う塗り薬は比較試験で効果が確かめられており、負担の軽い方法から順に試していけるためです。
試したうえで物足りなさが残る、あるいは毎日塗ること自体が負担という場合に、注射を検討していきます。順序を踏むほうが体への負担も抑えられます。
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