【多汗症チェック】異常な汗の基準とは?セルフテスト(HDSS)と皮膚科を受診する目安

多汗症チェックの出発点は汗の量そのものではなく、医療の場で見ているのは、その汗が生活をどれだけ邪魔しているかです。

目安になるのがHDSSという4段階のセルフテストで、自分の状態を1つ選ぶだけで重症度の見当がつきます。紙が濡れて困る、握手をためらう、といった支障があれば治療の対象になります。

もうひとつ大切なのが、体質としての汗と、病気が隠れている汗の区別でしょう。眠っている間も汗をかく、片側だけ出る、25歳を過ぎてから急に始まったという場合は、別の原因を確かめる必要があります。

この記事では、HDSSの使い方、原発性多汗症の6つの目安、受診の目安、皮膚科で受けられる治療を整理しました。

目次

多汗症チェックで見る「異常な汗」の基準は生活への支障

異常な汗かどうかを分けるのは、量ではなく困りごとの大きさです。何ミリリットル以上といった数値の線引きは診療では使わず、日常の場面でどれだけ支障が出ているかを見ていきます。

汗の量を測って診断するわけではない

汗の量には個人差が大きく、同じ量でも平気な方と困り果てる方がいらっしゃいます。そのため診療では、測定値より本人が受けている不便を重く見て、治療するかどうかを判断していきます。

暑さや運動、緊張したときに汗が増えるのは、体温を調節する正常な働きです。問題になるのは、そうした理由が見当たらないのに汗が出続け、生活の場面で実害が生じている状態でしょう。

当院でも、汗の量そのものより「生活にどれくらい支障があるか」を治療の目安にしており、困っていれば、それだけで相談する理由になります。

思っているより多くの人が抱えている

多汗症は珍しい状態ではなく、米国で行われた大規模な調査では、当初およそ2.8%と見積もられていた有病率が、後の調査では4.8%へと上方修正されました。

スウェーデンの一般集団を対象にした横断研究でも、同じように一定の割合で多汗症の方が確認されています。日本でも珍しいものではなく、周囲に相談しないまま過ごしている方が相当数いると考えられます。

その一方で、医療者に汗の悩みを話したことがある方は半数程度にとどまっており、治療できると知られていないために我慢が続いてしまう構図がうかがえます。

汗そのものより不安が生活を狭める

多汗症でつらいのは、汗をかいた瞬間よりも「またかくかもしれない」という予期の不安だと言われます。日本の大学生を対象にした調査では、多汗症の疑いが強い群ほど発汗に対する不安が高く、重症の群ではその傾向がとりわけ大きく出ていました。

不安が強まると人と会う場面を避けるようになり、行動の幅が狭まっていきます。仕事や対人関係への影響を訴える方が半数を超えるという報告もあり、生活全体に及ぶ問題として捉える必要があります。

  • 書類やノートが濡れて字がにじむ
  • スマートフォンや機器がうまく操作できない
  • 握手や手をつなぐ場面をためらう
  • 服の色や素材を汗じみで選べない
  • 着替えやタオルを常に持ち歩いている

こうした場面に心当たりがあれば、すでに生活へ影響が出ている段階です。汗の量を測るまでもなく、相談してよい状態といえます。

多汗症チェックの中心になるセルフテストHDSS

診療で広く使われているのがHDSSという4段階の指標で、自分の汗の状態に最も近い文をひとつ選ぶだけで済み、重症度のおおよその位置がつかめます。

段階汗の状態重症度の位置づけ
1まったく気にならず、日常生活の邪魔にならない治療の対象になりにくい
2我慢できるが、ときどき日常生活の邪魔になる軽症。外用薬から始める段階
3ほとんど我慢できず、ひんぱんに日常生活の邪魔になる重症。積極的な治療を考える
4耐えられず、常に日常生活の邪魔になる重症。早めの相談がのぞましい

3か4なら重症と判断される

4段階のうち3または4を選んだ場合、医学的には重症の多汗症として扱われます。1か2であれば軽症とみなされ、まずは市販品や外用薬で様子を見る選択が現実的でしょう。

この分け方はどの治療から始めるかを決める土台になっており、カナダの専門家委員会がまとめた指針でも、重症度に応じて治療を段階的に選ぶ考え方が示されました。

米国の調査では、多汗症のある方の7割が少なくとも一か所で重い汗を自覚していました。自分では体質と思っていても、指標に当てはめると重症の側だったという例は珍しくありません。

治療の効き目を測るものさしにもなる

HDSSは診断の入り口としてだけでなく、治療の前後を比べる指標としても使われます。段階が2つ下がれば汗の量がおよそ8割減った状態に相当するとされ、効果の目安になります。

ポルトガル語版を作って290人で検証した研究では、治療後の変化をきちんと捉えられる指標だと確かめられました。短い質問ひとつで済むわりに、信頼して使える道具といえます。

治療を始めたあとも同じ4段階で振り返っておくと、薬を続けるのか別の方法へ切り替えるのかを判断しやすくなります。感覚だけで前後を比べると、少しずつ起きた変化を見落としてしまいがちです。

受診前にメモしておくと話が早い

診察では、どの部位にどれくらい困っているかを短時間で共有できると話が進みます。HDSSの段階に加えて、汗が出る場所、いつから始まったか、どんな場面で困るかを控えておくと役立ちます。

市販の制汗剤を試した経験があれば、その商品名と使い心地も伝えてください。効かなかった方法がわかると、次に試す手立てを絞り込めます。

汗が増える場面に規則性があるかどうかも、伝えておきたい情報のひとつです。人前に出るときだけなのか、季節や時間帯に関係なく続いているのかで、考えられる背景が変わってきます。

多汗症チェックで確かめたい原発性の6つの目安

体質としての多汗症は医学的には原発性局所多汗症と呼ばれ、明らかな原因がないまま6か月以上続く汗があり、決まった特徴のうち2つ以上に当てはまるかどうかで見当をつけます。

6か月以上続いているかが前提になる

まず確かめるのは、汗の悩みが半年以上続いているかどうかです。数週間で始まって収まるような汗は、感染症や薬の影響など別の理由で起きている場合があります。

そのうえで、原因になる病気が見当たらないことも条件になり、この2つを満たしてから、次に挙げる特徴をいくつ持っているかを数えていく流れです。

半年という区切りは、一時的な体調の変化や環境の影響を取り除くために置かれています。引っ越しや転職の直後だけ汗が増えたという場合は、まず生活の変化が落ち着くのを待つ判断もありえます。

当てはまる項目を数えてみる

多くの専門家が共有している目安が次の6つで、2つ以上に当てはまれば原発性の可能性が高まります。この基準は感度と特異度の両面から検証されており、実際の診療でも使われています。

  • 最初に症状が出たのが25歳より前
  • 左右がほぼ対称に汗をかく
  • 眠っている間は汗が止まっている
  • 週に1回以上、多量の汗が出る場面がある
  • 血縁者にも同じ悩みを持つ人がいる
  • 汗のせいで日常生活に支障が出ている

この6つのうち家族歴は本人が意外と把握していない項目で、親やきょうだいに聞いてみると、実は同じように悩んでいたとわかる場合があります。

汗が出る場所にも特徴がある

原発性の多汗症では、汗が出る場所がある程度決まっています。手のひら、足の裏、わきの下、そして顔や頭が代表的で、全身にまんべんなく出るわけではありません。

複数の部位が同時に出る方も多く、手のひらと足の裏がそろうケースはよくみられますが、どの部位で困っているかによって選べる薬や治療の種類が変わってきます。

部位ごとに使える薬が違うため、どこで最も困っているかを絞り込む作業には意味があります。手のひらとわきの両方に悩んでいる方でも、優先して抑えたい部位から順に手をつけていく形になります。

多汗症チェックで見逃したくない隠れた病気のサイン

汗の増加が別の病気から来ている場合を続発性の多汗症と呼び、体質によるものとは対処が変わるため、まずこちらを除いてから治療を組み立てます。

見るところ体質による多汗症病気が隠れている場合
始まった年齢25歳より前が多い25歳を過ぎてから始まる
出る範囲手・足・わき・顔など決まった部位全身にわたることがある
左右差ほぼ左右対称片側だけ、左右差が目立つ
睡眠中汗は止まっている寝ている間もかく
ほかの症状汗以外はとくにない発熱、体重減少、動悸などを伴う

睡眠中の汗と左右差は要注意

415人の患者を13年にわたって調べた研究では、続発性の方に共通する特徴がはっきりと示されました。発症年齢が高い、左右非対称または片側だけ、全身に及ぶ、そして睡眠中にも汗をかく、という4点です。

とりわけ寝ている間の汗は体質による多汗症では通常みられないため、夜中にパジャマを替えるほど汗をかくなら、原因を確かめておいたほうが安心につながります。

片側だけ極端に汗をかく場合には、神経の走行に沿った異常が背景にあることも考えられます。自分では気づきにくい部分なので、家族に見てもらうか写真を残しておくと診察で役立ちます。

背景にありうる病気と薬

同じ研究で、続発性の原因の57%が内分泌の病気、32%が神経の病気でした。甲状腺の働きが高まる病気や糖尿病、更年期の変化などが、汗の増加として現れる場合があります。

飲んでいる薬が汗を増やしていることもあります。解熱鎮痛薬や一部の抗うつ薬などが知られており、いつから飲み始めたかと汗が増えた時期を照らし合わせると手がかりになります。

こうした背景が疑われる場合は、血液検査や他科への紹介を組み合わせて確かめていきます。汗を抑える薬だけを使っても、大もとが残ったままでは解決しません。

気になる変化があれば早めに相談を

発熱や体重の減少、動悸、強いだるさを伴うなら、汗だけの問題として片づけないほうが賢明です。皮膚科でも問診と診察から見当をつけ、必要に応じて検査へ進みます。

汗の相談で受診したことがきっかけとなり、背景にあった病気が見つかる場合もあります。汗そのものだけを見て判断せず、体調全体の変化とあわせて確かめていく姿勢が大切になります。

多汗症チェックの結果別に考える受診のタイミング

受診の目安は、HDSSの段階と困っている場面の組み合わせで決まります。段階が3以上なら早めの相談がのぞましく、2でも生活に支障があれば十分に相談する理由になります。

市販品を試して物足りないと感じたとき

ドラッグストアの制汗剤で足りているなら、急いで受診する必要はありません。物足りなさを感じ始めた時点が、医療機関で相談する自然なタイミングでしょう。

市販品と医療機関の薬では、汗を抑える成分も濃度も違います。市販品で効かなかったからといって、治療の手立てが尽きたわけではありません。

制汗剤を重ね塗りしたり、一日に何度も塗り直したりして対処している場合も、相談を考えてよい段階といえます。使う量を増やしたことで皮膚が荒れてしまい、かえって困っている方もいらっしゃいます。

生活の場面で実害が出ているとき

仕事の書類が濡れる、機器が反応しない、人と手を触れる場面を避けている。こうした実害が積み重なっているなら、HDSSの段階にかかわらず相談してよい状態です。

受験や就職活動、資格試験など、汗が結果に響きうる予定が控えている場合も同じです。塗り薬は効果が出るまで時間がかかるものもあるため、余裕をもって始めると安心につながります。

汗を避けるために行動を狭めているなら、それ自体が受診を考えてよい理由になります。参加したい場面をあきらめる状態が続いているのであれば、体質の問題として片づけずに手立てを探る価値があります。

我慢を続けても体質は変わらない

汗の悩みは相談しにくく、体質だからと諦めてしまう方が少なくありません。しかし医療者に相談したことがある方が半数程度という調査結果は、裏を返せば、治療にたどり着いていない方がそれだけいるという意味でもあります。

体質だから仕方ないと考えて長く過ごしてきた方ほど、治療を始めたあとの生活の変わり方に驚かれることがあります。まずは困っている場面を言葉にして共有するところから始めてみましょう。

チェックの結果考えられる状態受診の目安
HDSSが1日常生活への支障はほぼない急ぐ必要はない
HDSSが2軽症。ときどき困る場面がある市販品で足りなければ相談を
HDSSが3か4重症。ひんぱんに支障が出ている早めの相談がのぞましい
睡眠中や片側の汗がある別の原因が隠れている可能性段階にかかわらず相談を

多汗症の治療で皮膚科ができること

多汗症の治療は、塗り薬から始めて段階的に進めるのが基本です。当院では塗り薬・内服薬・ボトックス注射で対応しており、部位と重症度に応じて組み合わせを決めていきます。

治療内容主な対象部位
塗り薬塩化アルミニウム液、エクロックゲル、アポハイドローションなどわき、手のひら
内服薬抗コリン薬。全身の汗を抑える部位を問わない
ボトックス注射汗の指令を伝える神経の働きを抑えるわき、手のひら、足の裏

まずは塗り薬から始める

多くの場合、最初に選ぶのは塗り薬です。わきにはエクロックゲル、手のひらにはアポハイドローションといったように、部位に合わせた薬が使えるようになってきました。

塗り薬と内服薬による治療には健康保険が適用されます。負担を抑えながら始められる点は、最初の一歩を踏み出しやすい理由のひとつでしょう。

塗り薬は効果が現れるまでに数日から数週間かかるものもあり、使い始めてすぐに判断しないほうが賢明です。塗る時間帯や量にも決まりがあるため、指示どおりに続けられているかを診察のたびに確かめていきます。

十分でなければ注射や内服を検討する

塗り薬で足りない場合や、確実に汗を抑えたい場面があるときには、ボトックス注射や内服薬を考えていきます。ボトックス注射の効果はおよそ4〜9か月続くとされ、なお当院では自費での対応です。

内服の抗コリン薬は全身に働くため、口の渇きや便秘といった副作用が出る場合があり、効き目との兼ね合いを見ながら量を調整していきます。

どの方法を選ぶかは、困っている部位と重症度、そして生活の中でいつ汗を抑えたいかによって変わってきます。季節や予定に合わせて一時的に強めの手段を使い、落ち着いたら塗り薬へ戻すという組み立ても可能です。

当院で行っていない治療

多汗症の治療法としては、ほかにイオントフォレーシス、汗腺への手術、ミラドライなどの機器による方法も知られています。ただし当院では、イオントフォレーシス・手術・ミラドライは行っておりません。

当院で対応しているのは、塗り薬・内服薬・ボトックス注射の3つです。多くの場合はまず塗り薬から始め、十分でないときや確実に抑えたい場面があるときに、注射や内服薬を検討していきます。

よくある質問

多汗症のチェックはどこで受けられますか?

HDSSは4段階から自分に近いものを選ぶだけなので、自宅でそのまま行えます。特別な器具は要りません。

そのうえで原発性かどうかの判断や、別の病気が隠れていないかの確認は皮膚科で行います。セルフテストの結果を持って相談すると話が早く進みます。

多汗症の基準に汗の量は含まれますか?

診療で用いる基準は、量の数値ではなく生活への支障を中心に組み立てられています。同じ量でも困り方は人によって違うためです。

汗の量を測る検査法も存在しますが、日常の診療で必ず行うものではありません。困っているかどうかが出発点になります。

多汗症は何歳ごろから始まりますか?

体質による原発性の多汗症は、25歳より前に始まる方が多いとされています。手のひらや足の裏は小学生のころから、わきは思春期ごろから気づかれる傾向があります。

反対に、25歳を過ぎてから急に始まった汗は別の原因を考える手がかりになります。始まった時期は診察で必ずうかがう項目です。

多汗症は自然に治りますか?

体質によるものは、年齢とともに軽くなる方もいれば、長く続く方もいて経過はさまざまです。自然に消えることを前提にするより、困っている間の対処を考えるほうが現実的でしょう。

薬で汗を抑えている間に、汗を気にしない時間を積み重ねられます。不安が和らぐことで生活の幅が戻る方もいらっしゃいます。

多汗症の相談は何科に行けばよいですか?

汗は皮膚の症状ですので、まずは皮膚科で差し支えありません。問診と診察で原発性か続発性かの見当をつけ、治療の選択肢をお伝えします。

甲状腺の病気など背景が疑われる場合には、必要な検査や他科への紹介につなげます。汗そのものを抑える治療と並行して原因も確かめていきます。

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この記事を書いた人

野田真史のアバター 野田真史 池袋駅前のだ皮膚科 院長

医学博士 / 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医

東京大学医学部卒業、同大学院医学博士課程修了。米国ロックフェラー大学への臨床研究留学、ニューヨーク州医師免許取得を経て、東京大学医学部附属病院助教を務める。2018年、池袋駅前のだ皮膚科を開院。

ニキビやシミといった身近な悩みから難治性の皮膚疾患まで、常に知識を研鑽し、適切な診断・治療を行うことを信条としている。

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